どんな思いで部屋を出て行ったのか、それすら覚えていない。


ただ、ただ…
閉まるドアの音が、「助けて」と叫んでいるように聞こえた…。


数人の家政婦が俺とすれ違う度に小さく会釈をして「行ってらっしゃい」と言う。

俺はそんな家政婦たちにいつしか苛立ちを覚えていた。


「行ってらっしゃい」なんて言葉はいらないから、ここから出してよ。


唇を軽く噛んで、富田のあとを歩いていく。


毎朝思う。
何でこんなにも富田は大きいのだろう?と。

俺は富田を見上げるばかりだ。
小学生の時に比べ、だいぶ背は伸びたが、富田を抜かせるところまでは伸びていない。


どうしてそんなに高くなりたいかって?


それは、親父を見下ろしたいから。



「歩さん、今日は部活をやられて行きますか?」


「なんで?」



靴を履く俺に浴びせるように言葉を吐く富田。



「お迎えの時間を教えていただければお迎えに参ります」



溜まったため息をどう処理していいか分からなかった。