俺の中に入ってくるな。
俺は沙紀と幸せになるのだから。


強い眼差しでじっと親父を見つめる。
親父は唇を噛み締めて、小さな声でこう言った。


「…俺は、間違っていたのか?歩の為だと思っていたことは全て歩を苦しめていたのか?…富田…、頼みがある」



一瞬だけ見えた気がする。
親父からアノ目付きが消えた瞬間を。
一瞬だけ、優しい表情に変わった気がしたんだ。


…思い出す。
俺がまだ三歳だった頃、俺を抱き抱える親父の姿を。
あの時の笑顔は、とても眩しかった。
あの優しい笑顔が俺は大好きだった。

けど俺が成長していくにつれ、あの笑顔はなくなり、アノ目付きが現れた。

だから親父の笑顔というか、柔らかい表情を見たのは久しぶりだった。



「はい、何でしょう?」


「…これからは、歩と彼女のことも報告をしなさい。…久しぶりに見たよ、歩の生き生きとした表情を…」




親父はこう言って、静かに部屋から出て行った。そして富田も親父の後を追っていく。
俺に一礼をして、部屋から姿を消した。