でも今沙紀は俺の目の前にいない。
だからいち早く駆けつけたいんだ。
俺は隼人に視線を下ろし、最後にこう言葉を吐いた。
今までの不満。
「…隼人、そんなに彼女が大事なら俺と一緒にいなくていいよ。彼女とずっと一緒にいろよ。俺は一人でいいから。」
「…は…い?」
俺の話を無理に聞かなくていいよ。
俺と一緒にいなくていいよ。
俺より彼女を信じたいなら、俺はお前を捨てるよ。
信じてくれない友達といたって、楽しくなんかないから。
「もしこの先そのままだったら、誰もお前のことなんか信じてくれないからな」
気づいてくれよ、隼人。もっと自分を持ってくれよ。
今なら取り返すこと出来るから。
お前は唇を噛み締めて、教室から出て行った。
静かすぎる教室は、俺が去ったあとも静かなままだった。
あの嘘が教えてくれた。俺は沙紀がいないとダメだと。
そして沙紀を守りたいという決意をくれた。
この嘘がなければ、沙紀を守れなかっただろう。
俺はある人を探す。
それは塚本明日香。
明日香に沙紀の家を聞き出そうと思ったのだ。
廊下を走り、司と明日香がいた中庭を目指す。
ふと真っ直ぐ前を見ると、廊下の先にある人が立っていた。
俺は徐々にスピードを遅くしていく。
「…司?」
それは司だった。
「歩、全部お前のせいなんだからな…」
司の頬には、透明な涙が伝っていた…。