「それでもアユニ」
野中七海は淡々とした口調で言った。
「わたしとアユが過ごした時間は、幻なんかじゃない。
一咲が死んだ事も。パパが狂ってしまった事も。
そうして、パパがわたしの罪を恨みながら死んでいった事も。
その事は形を変えて、わたしの中に永遠に住み続ける。
それはわたしだけのものだし、わたしだけの責任なの。
生きていくというだけの事に、わたしは苦痛を強いられてる。
そこに意味を求めないなんて、わたしには無理だわ」
「もちろん」
と、僕は強く頷く。
「僕が君の苦しみや痛みを取り除いてあげることはできない。
でも、ただ、」
それから呼吸を整えた。
「時間とゆうのは、君が考えているよりもすごい力を持っているし、一人でいるよりは二人でいた方がずっと、嫌な事を思い出さずに済む。
そうやって意味を誤魔化しながら生きていたって、誰も責めることはできないし、もともと、僕達は苦痛を避けながら生きるようにできているはずなんだ。
僕が言いたいのは、そうゆう事だよ」