「だからもう、考えるのはやめにしよう。
僕達は明日、東京へ帰って、今まで通りの生活をする。
歩太がいなくなってからの、僕達の生活だよ。
夜はさくらへ行って、ママと小百合さんと工藤さんにお礼を言う。
休みの日は尚子とお喋りをして、美味しいものを食べて過ごす。
朝は簡単な朝食とコーヒーを用意する。
それを二人で食べる。
たまには外食もする。
歩太を懐かしむ日もある。
一咲さんの死を悼む時間も。
君はそうゆう時間を、今までちゃんと、生きてきた。
僕はそれを知っている。
生きるという事は多分、そうゆう事の繰り返しなんだ」


「………」


野中七海は何も言わない。
言わずに、じっと前を見据えている。
長い睫毛に、涙の粒が溜まっていた。


「僕は君の側にいて、その手助けをするつもりだよ。
君が望むのなら、いつまでだって」


………


彼女が僕を見た。
その瞳の奥は深く深く揺らめいていて、うまく感情が読み取れない。