……マスターの人徳だろう。
歩太はこの人に憧れて、バーテンダーになったに違いない。
歩太ならきっと、遠野さんのようなバーテンダーになれただろう。
いや、もしかしたらそれ以上にだって……
………
混んできたので、僕達は店を出る事にした。
お釣りを受け取る際に、
「七海ちゃんを、頼んだよ」
と、遠野さんは僕にこっそり耳打ちしてきた。
返事をする代わりに、僕は小さく一つ、頷く。
………
外に出ると街のネオンが冷たい空気によく映えていた。
野中七海はいつまでも名残惜しそうに、店の外まで見送りに出てくれた遠野さんを振り返った。
「またいつか、二人でおいでよ」
そう言って手を振る遠野さんに、僕もまた、すっかり親しみに近い感情を抱いている。
本当に不思議な魅力を持つ人だった。