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野中七海は何も言わなかった。
言わないままで、遠野さんは何もかもを見透してしまったようだ。
「マスター、ハッピーニューイヤー!」
「おう! いらっしゃい」
背中を冷たい風が通り抜けたと思ったら、急に騒がしくなった。
一組のお客さんが入って来たのだ。
何とも絶妙なタイミングだ。
マスターはさっきとは全く違う表情を貼り付けた。
入って来たカップルはもうすでに酔っている様子で、小さなボックス席に座り、大声でビールを注文している。
笑い声で、ブルースも掻き消されてしまった。
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さっきまでこのカウンターに漂っていた緊張感は一気に消え失せ、外の冷気と共に騒がしさが蟠る。
僕と野中七海は、途端に取り残されてしまった。