………


野中七海は何も言わなかった。
言わないままで、遠野さんは何もかもを見透してしまったようだ。



「マスター、ハッピーニューイヤー!」


「おう! いらっしゃい」


背中を冷たい風が通り抜けたと思ったら、急に騒がしくなった。
一組のお客さんが入って来たのだ。
何とも絶妙なタイミングだ。

マスターはさっきとは全く違う表情を貼り付けた。
入って来たカップルはもうすでに酔っている様子で、小さなボックス席に座り、大声でビールを注文している。

笑い声で、ブルースも掻き消されてしまった。


………


さっきまでこのカウンターに漂っていた緊張感は一気に消え失せ、外の冷気と共に騒がしさが蟠る。

僕と野中七海は、途端に取り残されてしまった。