それから僕は、隣でホットワインに口を付ける野中七海に視線を向けた。
彼女は俯いて、グラスの中に揺れる紫に近い赤を見詰めている。
その瞳の奥にもまた……
僕の知らない強い意志が、眠っているのかもしれない。
その影を……遠野さんならきっと、見逃さない。
「もう、十分苦しんだだろう。歩太も、七海ちゃんも。
そろそろ天国へ送り出してやるんだな、一咲ちゃんを。
時々思い出してやればいい。一番幸せだった頃の彼女をね。
それが、生き残った人間の仕事なんだよ」
遠野さんは笑顔を崩さない。
その声は、確信に満ちていた。
「さあさ、暗い過去の話はここまでとして、飲もう。サービスするから。
それで明日は、二人で東京へ帰るんだ。いいね?」
パン、パン。
空気を変えるように、遠野さんはカウンターの上で軽快に手を叩いた。