「死んだ人間のために命を張るなんて馬鹿げてるよ。
どうせ命をかけるなら、生きてる人間のためにするべきだ。
……歩太にもそう言ったんだけどね」
遠野さんはグラスを傾けながら、懐かしむように数回、瞬きをした。
「だけど……」
……カラン
それから最後の一口を飲み干して……
「救えなかったかもしれないな、僕には」
遠野さんは寂しそうに、そう呟く。
………
想像してみる。
このカウンターに座ってワインを飲む歩太。
遠野さんの言うように、死を選ぶ覚悟をしていたとして……
青白い横顔に頼りない笑顔を称えている。
その目の奥に、いったいどんな遺志を秘めていたのだろうか。
想像すらできない……僕には、そう簡単に。