「歩太も、ここに懺悔をしに来たみたいだけどね。
僕はすぐに東京に帰るように言ったんだ。
ここに居たって、死ぬことしか考えられなくなるからね。
どうだ? 七海ちゃんも辛いだろう。
仙台に居るのは」


「……はい」


「当然だよ。
逃げなさいな。
逃げたって、誰も責めない」


「……」


「彼と一緒に。
ねえ、歩夢くん」


突然名前を呼ばれて、僕は慌てて顔を上げた。

白髪混じりの眉毛。
その下から覗く瞳は薄い黒。

カウンターの奥で微笑む遠野さんは、すごく、優しい顔をしている。

ああ、この人は多分、何もかもを知っているのだ……そう思った。


………


コクンコクン、コクン……


遠野さんのグラスに、ブランデーが注ぎ足される。


「静かだね。
何か音楽をかけようかな」


遠野さんはそう言って、スピーカーのスイッチを入れた。
低音がとても心地よいブルースが流れる。
ボーカルの唸るような声音が腹に響いた。