「生きていく以上はね、死んだ者の影を背負っていくのは、誰にだって必然なんだ。
あんなことになってしまったから、君達の気持ちもわかるけど。
僕らくらいの歳になるとね、君達のように若い命を無下にするのは、もったいないって、身に染みて感じるんだよ」
遠野さんは小さなロックグラスにカランコロン、と氷を入れた。
そこに、コクンコクンコクン、と音を立ててブランデーを注ぐ。
「もう、5年だ。時効にすればいいさ」
そうしてゴクッと、ブランデーのオンザロックを一気に煽る。
………
遠野さんの強引さには、心地よい親しみが感じられて、初対面の僕には不思議な気持ちだった。
野中七海や歩太にとって、おそらく彼は父親のような存在だったに違いない。
遠野さんを見る彼女の横顔は、無言のままそれを物語っていた。