……『歩太』
その言葉に、僕達の手は自然に止まってしまう。
「遠野さん、ここに来た時のアユは……どんな風でしたか?」
「どんな、ねえ」
野中七海の質問に、遠野さんは答えを濁す。
何か言いにくそうにして、口許を歪めながら……
「何だか、今にも死にそうだったよ」
と、冗談にならない冗談を言った。
………
野中七海は何とも言えない微笑を浮かべながら、しばらく黙ってしまった。
パスタを絡ませたままのフォークを、右手に握ったままで。
……睫毛が、微かに震えている。
そんな彼女の様子を見て、遠野さんは深い溜め息を吐いた。
「やっぱり、七海ちゃんもそうかい?
馬鹿なことは考えちゃいけないよ。
死に急いだって、一咲ちゃんは、戻って来ない」
……『一咲ちゃん』
その名前に、野中七海がピクリと反応する。