「はい。
でも、今日は……」


「歩太を追って、来たのかな?」


野中七海の声を、あっさりと遮る。
その遠慮の無さから、この遠野という男性が彼女にとって親い存在であるということが、すぐに予想できた。


「……はい。ここに……」


「歩太ね、来たよ。
うーーん、もう去年になるね。確か、2月だ。
まだ寒かった」


テンポの早い喋り口だった。
彼女の言いたいことは全て、もう分かっているかのように。


「まあまあ、ゆっくりしていってよ。
久しぶりなんだから。
何か飲む? ワインかな。ホットにしようか。
えっと、そちらの……」


「あ、歩夢です」


「歩夢くんね。
君は? ビールかな」


「はい」


「ようし、待ってて。
チーズを出そう。
よっこいしょ」


遠野さんは屈んで、カウンターの下にあるらしい冷蔵庫から、カマンベールチーズを取り出した。