……歩太が仙台(ここ)に訪れていたという事実の下で、この街にぼんやりと漂っていた歩太の影が濃縮され一点に集まり、僕達の周囲から徐々に薄れていく。
僕には何だか、そんな風に感じられていた。

「アユ」と野中七海の唇が発音するのを、今日になって僕は一度も聞いていない。


………


歩き疲れたので、3時を回った所でホテルにチェックインをした。
……506号室。
今晩、僕達はこの部屋で二人きりで過ごす。
それを思うと、緊張で記帳する手が震えた。


「疲れたね」
と言って二人で各々のベッドに腰を掛ける。
部屋はシングルルームとほとんど変わらず狭く、ベッドとベッドの間は1メートルもない。

小さな木製の机と、キャンバス地の傘が付いたルームライトが、二人の枕を挟むようにして置いてある。