………


ああ……いったい、何て無力なのだろう。

現実に対して、人の思いはいつも、途方もなく無力だ。


ただ、祈ることしかできない。
ただ、願うことしか。



その情けなさから逃げるようにして、僕達はただひたすら、歩く。



………


「ごめんなさい、アユニ。わたし、体が、冷えちゃったみたい。
少し、部屋で休むわね」


ホテルのエレベーターの前に立つと、彼女は虚ろな視線で僕を見た。
マフラーをハラリと落とすと、白くて細い首が露になる。
いつか写真で見た、白樺の幹のようだと思った。


「そうだね。少し、横になった方がいい。
何かあったら、部屋に電話をくれればいいから」


それが、何か彼女のためにはならないだろうかと、僕は精一杯の笑顔を作る。