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沈黙のまま、何時間も歩いたような気がした。
野中七海は相変わらず小さな唇を結んだままで、その表情からは今は何も読み取れない。
無数の粉雪が頬に当たっては溶け、僕の襟を濡らしていく。
彼女の黒い髪にも、風に舞った白がうっすらと積もっている。
雪は風と共に益々強くなる。
駅に入ると、ホッとしたように足取りを緩める人々の中で、彼女のスピードは変わらなかった。
コートに、スカートに、パンプスに……
付着していた雪を振り払うようにして歩く。
……彼女の中に降り積もった過去も、こんな風に振り落としてしまえれば楽なのに。
コンクリートの上に残された水滴を見送って、僕はそんな事を考えていた。