……わからない。

わからないけれど、華奢な身体を畳むようにしてこの店の古びた椅子に座り、ただ呆然と湯気の上がる食事を見詰める歩太の姿を、僕は想像してみる。

……油と臭みに滲む汗。
かつての自分はここに居て、これを食べていたのだ。

そして否応なしに思い出される、大切な人達の、
……「死」

それは何だか……


「残酷ね」


野中七海の声。


「なんだかとっても、残酷……」


今にも、泣き出してしまいそうな彼女の顔。



………


僕達は会計を済ませて外へ出た。
ドアを開けると、視界に白が飛び込んでくる。


「あらあら、いやあね。雪になっちゃったわね」


見送ってくれた三角巾の女性は、最後まで他人事のような声を出した。
それには応えずに、僕と野中七海は黙ったまま、雪の中を歩き出す。

僕達には傘もない。
風は強いけれど幸い粉雪で、それほど濡れそうでもないけれど、そんな事などどうでもいいと思えるほど、心が草臥れていた。