「はい。眼鏡をかけた、身体の細い……」
「はいはいはい」
野中七海の説明に、店員の女性は適当とも取れる相槌を打つ。
「綺麗な顔のね、うんうん。
5年くらい前よね? よく来てくれてたのは」
早口でそう言うと、
「そうだったわよねえ、あんたも覚えてるでしょう」
と、カウンターの中にも声を掛ける。
厨房には、彼女のご主人か誰かがいるのかもしれない。
返事は、ないけれど。
「そうそう、彼ね。
あ、そう。彼ならね、いつだったかしら、一人で来てくれたわよ、ここに」
「えっ」
驚きで、僕と野中七海の声が重なる。
「半年以上前ねえ……
ほら、いつだったかしら。あの、裏のマンションで自殺があったじゃない?
彼、亡くなった妊婦さんともよく来てくれてたから、よく覚えてたのよね。
あっ、あら、ごめんなさいね、こんな話」