各々の定食を食べ終え、テレビに映ったバラエティー番組を見るでもなく見ていると、
「すみません」
と、野中七海は三角巾の女性に声を掛けた。
注文表を手に取り、女性は慌てて駆け寄って来る。
「……あの、わたしのこと、覚えていないでしょうか」
突然、野中七海にじっと見つめられ、最初、女性は困惑した表情を見せた。
それから少しずつ、表情を崩して笑顔になる。
「ああーー……」
どちらとも取れない声を出して、
「ええっと、そうねえ」
と、女性は暫く言葉を選んでいた。
化粧をしていないので少し老けて見えるけれど、近くで見ると、まだ40代くらいかもしれない。
「うーーん、もしかして、あの、イケメンの男の子とよく来てた子かしら?」
……イケメン。
いかにも彼女には使い慣れていない発音だった。