野中七海は、ゆっくりとした動作で野菜炒めに箸を入れる。
まるで、その感触を懐かしむように。


「でも、一咲が死んですぐ、アユは、最愛のお母さんも、亡くしてしまって……」


そう言って、彼女は野菜炒めをその小さな口に含む。


「……心労がたたったのね。
綺麗で優しい人だったわ。線が細くて……前から体が、弱かったみたいだけれど」


彼女の話を黙って聞きながら、僕も熱いからあげを口に頬張る。

鼻から抜ける、にんにく芳ばしい香り。


………


……僕の知らない歩太の形が、次々と露になっていく。

僕の中で、まるで硝子のように鋭利で、プラスチックのように無機質だった歩太。


……想像してみる。
ここでスタミナ定食を頬張っていた歩太。
母親を懐かしんでいた歩太。
恋人を失くした歩太。
母親を亡くしてしまった歩太。

それらはとても肉感的であり、感情的であり。

とても……人間的だ。