「うん、まあ、そうだね」
あの、いつもシンプルで、清潔そのもののような歩太。
そんな歩太が、こんな油にまみれたお店のテーブルに座っている姿は、少なくとも僕には想像ができない。
歩太は肉も魚も好まなかった。
このお店で、歩太は何を食べる事ができたのだろう。
あんなに匂いを気にしていた彼が、この油の匂いには我慢できたのだろうか。
「そうよね、でも」
野中七海はゆっくりと、運ばれてきた熱いお茶を一口啜った。
「アユニが知っているアユは、一咲が死んでからのアユだから」
それを見て、僕も黙ったままお茶を手に取る。
「アユがお肉を食べなくなったのも、お魚を食べなくなったのも、一咲が死んでからなのよ」