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ヤニと油の染み込んだ天井。
壁に画鋲で留めてあるだけの手書きのメニュー。
カウンターの上の薄汚れた達磨。
ブラウン管の小さなテレビ。
目一杯稼働している薄汚れたファンヒーター。

目に写るもの、どれもこれもが古びていた。


湯気と暖かい空気が僕らを包み、醤油とにんにくのいい香りに、僕の喉が鳴る。


「あちらへどうぞー」


三角巾の女性に促されて、僕と野中七海は一番奥の席に向かい合って座った。
姿勢を崩すと、丸型のパイプ椅子が軋む。


………


「意外でしょう」


僕はとりから定食を、野中七海は野菜炒め定食を注文してから、落ち着かない僕に彼女は言った。


「このお店、何だかアユらしくないって、思ってるでしょう」


歩太らしくない……
確かに。
僕が知っている歩太は、こんなお店で食事をするようなイメージではない。