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「荷物、それだけ?」


出発当日、新年2日目の朝。
アパートを出ようとする彼女の手荷物は、小さなボストンバック一つだけだった。


「ええ、そうよ」


そう言えば数ヵ月前、ここを訪れた野中七海の荷物もまた、たったこれだけだった事を思い出す。
尚子がいつも持ち歩くトートバッグの方が、ずっと重そうだ。


「アユを探すのに、そんなに大げさな荷物はいらないでしょう?」


そう言って笑う彼女は、最近覚えたはずの化粧もやめてしまっている。


「それより急ぎましょう、アユニ。
なんだか天気が、よくないみたいだもの」


ドアを閉めてアパートの隙間から空を見上げると、黒い雲が澱んでいる。