………
野中七海はいつになく酔っていた。
さくらの帰り道、
「こんなに楽しいクリスマスは、本当に久しぶり」
そう言って夜空を仰ぎながら、足元をふらつかせて笑った。
ヒールの音が夜の暗闇に響く。
寒さの中を泳ぐように、僕と彼女は歩いていた。
僕の手には、クリスマスケーキの箱。
アパートに帰ったら二人で食べなさいと、ママが気を使ってくれたのだ。
それを喜んで受け取った彼女の笑顔には、一点の曇りもなかった。
「ねえ、アユニ。明日も楽しみね」
そう言って赤い顔を綻ばせる彼女は、
『クリスマスは嫌いなの』
そうキッパリと言い切ったあの野中七海とはまるで別人のようだ。