不覚にも僕の手は、怒りに近い感情で僅かに震え出していた。
まだ幼く汚れのない、美しいだけの野中七海の傍らにするりと入り込んだ狡い男。
一咲さんという愛する人がいるはずなのに。
ましてや相手は、義理の妹になる人ではないか……!
誰のものでもない?
それは、歩太だけではない、全ての人が持つ性質だ。
何ものにもなれる?
それだってそうだ。
役割というものは、その時その時で変わるものなのであって、歩太に限って起こる事ではない。
皆、自覚の元に自制しているに過ぎないのだ。
歩太が元来、気まぐれな性格であったにしても、歩太のやった事は度が過ぎている。