………



彼女の声が途切れると、代わりに冷たい静けさが現れる。
それに反して、火照り出す僕の身体。



「だけど、あの夜……
わたしがベッドにしていたソファーに、アユがこっそりと入ってきて、内緒だよって、人差し指を唇に当てて笑って見せた時……
わたしにとってアユは、もうすでに兄でもパパでもなかった」


呟き出された野中七海の言葉は、生っぽい湿りをも帯び始めていた。
ねっとりとした感覚で、ぬるりと僕の耳に入り込んでくる。

僕の体は多分、意識以上に何かを察している。


「……アユは、男のひとの目をしていた。
唇は悪戯っ子の様に笑っていたけれど、表情は笑っていなかったわ」