………
フウ……
彼女は形のいい唇から、幽霊の様な、あやふやでモヤモヤとした形の煙を吐いた。
まるでそれは、彼女の中から生まれてしまった悪魔の様で、思わず僕は顔を背ける。
……罪の子。
なぜ。
なぜ、彼女がそんな言葉を使わなくてはいけないのか、僕にはわからなかった。
僕の知らない彼女の姿は、想像している以上に僕を困惑させる。
………
足元からくる冷えが、今度は僕の肩を震わせた。
彼女もまた、口元へ運ぶ指先を先程よりも大きく震わせている。
………
「一咲は、みんなに愛されていたわ。
パパにも、アユにも……」
……『一咲は』
静かにそう言った彼女の口ぶりには、どこかトゲがあった。
その言葉の裏側には、僕の知らない深い深い溝の様なものが、パックリと口を開けているのかもしれない。