「ママ、あちらのお席、お会計です」
突然、しんとしたカウンターに軽快な小百合さんの声が響いた。
「あら、またお二人で難しいお話ですか?」
工藤さんとママの背後から、スリムな体を寄せて笑う小百合さん。
小百合さんの笑顔は、一瞬にしてカウンターの活気を取り戻す。
「いやあ、ちょっと君の話をね。
君がいかに、私に尽くしてくれているかを、だね」
そう言って工藤さんが茶化せば、
「まあ、イヤミったらしい」
と、小百合さんは嬉しそうに応える。
「あら、本当なのよ」
と、さらにママが調子に乗れば、
「まあ、ママまで」
と、小百合さんは膨れっ面だ。
さくらは、やっぱりこの雰囲気がいい。
「ママ、あちらもお会計です」
見計らっていた様に、野中七海もそれに続く。
上気した彼女の顔がカウンターの灯りに照らされて、更に頬の赤みが目立った。