「ウフフ、大丈夫よ。
歩夢は口数も少ないし、肝心な事は何も言わないけれどね、でもね、最後の最後に女が選びたいと思う様な男なのよ。
あの子だって、いつかそれに気が付いてくれるわ」


……あの子。
それはやはり、野中七海の事だろうか。

僕の気持ちはどうも、ママにもすでにお見通しらしい。


「いや、でも彼女は手強いよなあ? 歩夢」


工藤さんが悪戯を企んでいる子供の様な目で僕を見る。
僕はそれを苦笑いで誤魔化した。


「あら。そう勝手にそっちが思い込んでいるだけじゃないかしら。
あの子の場合、無くなったものが少し大きかっただけよ。
それだけの事なの。
女はもっとずっと、単純な生き物よ」


ママはトマトジュースを一口すすり、笑う。

短めに切られた黒い髪。
その隙間から、小ぶりだけれど豪華なイヤリングが見えた。


「そういうもんですかね」

と、工藤さんが呟けば、

「そういうもんです」

と、ママは自信たっぷりに微笑む。


僕はそんな二人の様子を横目に、短くなった煙草を揉み消し、工藤さんのグラスに最後のビールを注いだ。