「ママ、こいつ、最近変でしょ?
いっちょ前に恋わずらいなのよ」


そう言って笑いながら、工藤さんも残り半分になっていた僕のグラスにビールを注いでくれた。


「あら、やっぱりそうなの?」


ウフフ、と笑って、ママは僕の顔を見る。

カウンターの灯りで、ママの目尻には皺がくっきりと浮かんでいた。
上品に重ねられた年輪は美しい。


「女はねぇ、何だかんだ言ったって、いつも誰かに側にいてもらいたいものなのよ」


トマトジュースの入ったグラスを両手で弄びながら、ママが突然そんな事を呟く。


「おっ、いいね。ママもたまには女を語るねえ」


それを見て、工藤さんはニヤニヤしながらグラスを傾けた。


「あら、わたしだって女なんですよ?
歩夢の恋の相談くらい、乗ってあげられるんですから」


「おっ、それはぜひ聞いてみたいなあ」


いつの間にかカウンターでは、当の本人を差し置いて僕の恋愛相談会が始まってしまう様だった。
そんな二人の勝手な話が野中七海の耳に届いてしまわないか、僕はチラリとボックス席に視線を泳がせる。

頬を赤らめて、少し酔っている様子の彼女。
こちらを気にする気配はない。