店を出て歩き出すと、12月の風は僕達のコートをすぐに冷やしてしまった。
野中七海は大袈裟にマフラーをぐるぐるに巻いて、おどけた顔をして見せた。
それを見て、僕が笑う。
ああ……いつだって二人で、こんな風にいられたらいい。
僕は歩きながら、横目で彼女の横顔を追った。
鼻が隠れるまで持ち上げられたマフラー。
長い睫毛。
マフラーから漏れる白い息。
彼女を形成する何もかもが今、僕の隣にある事をこんなにも幸福に思う。
………
回り出して、誰の意志でも止まらない運命の歯車は、確かに僕の知らない所へ向かおうとしている。
その先にあるのが、幸福なのか不幸なのかは誰にもわからない。
いつか夢の中で歩太が言った様に、何もかも頭から飲み込まれてしまっているのかもしれない。
この恋の行方だって前途多難だろう。
そんな事は百も承知だ。
「少し街を歩いて、それからまた、タクシーを拾おう。
今日は早めに……そうだな、7時には店に入ればいいよ。
小百合さんは工藤さんと同伴だからね」
僕の言葉に、彼女は小さく頷く。
頬だけではない、今度は鼻の頭まで赤い。
それを見て、僕はこっそり微笑んだ。