ああ、何故なら。
僕の目の前で美味しそうにサラダを頬張っている彼女は、間違いなく野中七海自身なのだ。
そんな、ごく当たり前の事に動揺している。
常に、歩太の影を身に纏っていた彼女。
それは彼女自身が醸し出していた雰囲気でもあったし、僕が押し付けていたイメージでもあった。
僕のあの恥ずかしい告白で、その両方がじわりじわりと変化を見せている。
僕の気のせいだろうか?
願望の果ての一方的な妄想だろうか?
どこかでそんな風に疑問を抱きながらも、こんなに幸福な気持ちでいられるは、僕の頭が完全にのぼせ上がってしまっているためかもしれない。
………
「まだ、さくらへ行くには少し早いね。
……ちょっと歩こうか」
食事が終わって時計を見ると、まだ4時半を回ったところだった。
僕達はビールを二杯ずつ飲み、ハーフボトルのワインも二人で空けてしまった。
ちょうどいい具合に酔っている。
「そうね」
そう言って頷く野中七海の頬が、赤く染まっている。
彼女の場合、少し飲み過ぎたかもしれない。