「待たせてしまって、ごめんなさい、アユニ」
「いや、待ってないよ」
「タクシーを拾う?」
「そうだね、歩くには少し、距離がある」
この気持ちに上手い説明が付かないまま、僕はそれを誤魔化す様にして、タクシーを拾うために大通りを見渡せる歩道へと駆け出した。
幸いここは、タクシーも捕まりやすい。
僕の合図を見つけた一台のタクシーが路肩に寄せて止まると、僕達を乗せてスムーズに目的地へと向かった。
タクシーの中で、僕が紺色のコートを誉めると、彼女は、
「尚子さんが選んでくれたのよ」
と、嬉しそうに頬を染めた。