近頃の僕は、悶々と野中七海との事を考えながら、適当に授業を受けていた。

知り合いと呼んだ方が相応しい程の友人と学食で食事を摂っている間も、彼女が今どうしているのかが気になった。

もちろん、彼女の事を誰かに話そうなどとは思わない。
友人の中には、そういった類いの話題しか持たない奴もいるけれど、幸い、僕には『尚子』という彼女がいるらしい、という事で収まっていた。
尚子には申し訳ないが、僕にはいつもそれが好都合だった。


だから今日だって、本当は野中七海が大学へ顔を出す事を僕は好まない。
僕はそれほど友人が多い訳ではないし、コンペで入賞したりするほどの優秀な人材でもないのだから、僕がどんな女の子を連れていようが構う人間はいないだろう。

けれどもやはり、彼女の様に美しい存在には、大学という若さと世俗にまみれた場所は相応しくない様に思えた。

それなので授業が終わるとすぐに、僕は大学の正門に立った。
携帯を持たない彼女と、どこかですれ違ってしまう訳にはいかなかった。