「頼りにならないかもしれないけど、僕にできることは、なんでもするから」


ああ、まさか。

自分の口からこんな言葉が出てくるなんて、僕には信じられなかった。

どうかしてしまったのだろうか。


けれども確かに僕の唇から発音された、何とも不似合いな言葉達。
それらは強い響きを持って、野中七海へと続いて行く。


「アユニ……」


そう言って僕を見上げる野中七海の瞳は、水分を沢山含んでキラキラと輝いている。
瞬きをする度に黒い睫毛がそれを隠し、頬に微かな影を落とした。


………


僕はテーブルの上にマグカップを置くと、彼女の正面、僕がいつも座る席へと座った。


彼女は俯いて緑茶の香りを嗅ぎ、
「ありがとう」
と呟いた。


「あったまるよ」


僕は自分のマグカップを手に取り、一口啜る。
僕のそんな仕草を見つめながら、彼女も一口、静かに緑茶を啜った。

せめて……
僕が用意した温かい飲み物が彼女の体に染み入り、少しでも彼女の中に蟠った何かを溶かしてくれればいい。
そう、思っていた。