………
シュンシュンシュン……
ヤカンが静かに音を立てるのを、僕はしばらくの間見つめていた。
白い湯気が立ち上る。
「何でも、言ってくれればいいから」
僕は言葉を選ぶ様にして、野中七海に背を向けたままそう呟いた。
「僕は二番目の歩太だから。
少しは君の、役に立ちたいと思ってるんだ」
………
シュンシュンシュン…
シュンシュンシュン…
シュン……
カチン
ヤカンの火を止める。
マグカップを2つと、緑茶のティーパックを用意し、熱いお湯を注ぎ込んだ。
柔らかい緑茶の香りが立ち上る。
「もちろん、君が望むのなら、だけど」
それから僕は、自嘲気味に小さく笑う。
さすがに、気恥ずかしさを感じていた。
僕が少し照れながら、お茶をいれたマグカップを持ち振り返ると、そこには、彼女の微笑みに満ちた視線があった。
「アユニ。嬉しい」
彼女の頬が、上気してピンク色に染まっている。
小さな唇もさっきより赤々として、長い睫毛が、彼女の白眼を隠す。
ああ……この表情。
この表情が彼女の顔に浮かぶのなら、僕はきっと、何をも惜しまないだろう。