「ねえ」
と、僕は彼女に背を向けたまま問いかけた。
「大学が休みに入ったら……一緒に仙台に行こう」
仙台。
彼女は……どんな反応を示すだろうか。
僕の心臓は、大きく波打った。
「せんだい?」
彼女のか細い声が繰り返す。
「そう、仙台」
僕はもう一度、そう強く発音する。
「……本当? 嬉しい」
彼女の声は柔らかくて、まるで噛むように丁寧な発音だ。
……振り返らなくても分かる
きっと彼女は、微笑んでくれている。
「七海と一緒に、アユを探してくれるのね? ……アユニ」
ああ、彼女にはきっと、何もかもお見通しなのだ。
僕の陳腐な優しさなど、すでに。
「僕はできるだけ、君の力になるよ」
僕はこの時初めて、そう彼女に告白した。
今まで、こんな素直な言葉を口にした事なんてなかった。
多分、誰に対しても。
僕の言葉は静かにキッチンに落ちて、思いの他、陳腐な響きになってしまったけれど。
……構うものか。
そう思ったら、胸のつかえが取れた様に呼吸が楽になった。