「ナナミちゃんに、よろしく伝えておいて。
歩夢、また連絡するね」


そう言って尚子は、玄関で手を振った。

僕が、
「送るよ」
と言うと、首を横に振って断った。


「あたしは大丈夫だから。ナナミちゃんの側にいてあげて」


そう言って笑う尚子は、何だか頼もしい。
子供ができてからの尚子は、随分逞しくなったな、と僕は思う。


「じゃあね」


「うん、じゃあ」



キイ……


……バタン


………


尚子がドアの閉める音が響いた後には、ただ静けさが漂った。

僕は重い足取りでキッチンへと向かう。
野中七海に、どんな言葉をかけたらいいのだろうか。


………


「アユニ……」


僕がキッチンを覗くとすぐに、膝から顔を上げた野中七海と目が合った。


『アユニ』

今度こそ彼女は、僕の名前を呼ぶ。