尚子のそんな言葉に、僕は黙り込んでしまった。
僕は……
僕は今、野中七海の事を何一つ知らないという事実を思い知らされていた。
そんな僕が、彼女の「罪」とやらを解す?
彼女がどこで生まれ、育ち、何を見て何を知り、何を好み何を嫌うのか。
好きな色は何だろう。
好きな食べ物は……
それすらも知らない僕が?
歩太のフィルターをかけて彼女を見ていたのは、本当は僕の方か?
僕は、野中七海を野中七海として見、受け入れてきたか?
……わからない。
わからないのだ。
彼女には、歩太の影が強すぎる。
彼女の過去に、いったい何があった?
………
「仙台……」
僕は思わず、そう口にしていた。
「せんだい?」
「……そう。そこに、二人の過去の秘密があるかもしれない」
僕の言葉に、尚子は強く頷いた。
「うん。何でもさ、試してみなよ。
ナナミちゃんが、歩太から解放されるかもしんないんなら。
歩夢に出来ることなら何でも」
それに応える様に、僕も小さく一つ、頷く。