もとはといえば。
歩太がいなくなる直前まで、尚子の寝床は僕の部屋ではなく、キッチンを挟んだ歩太の部屋だった。

あの頃の僕は、キッチンや廊下で尚子とバッタリ会う事があっても、小さな会釈をするだけだった。

歩太が連れ込む女の子は、一人や二人ではなかったから、尚子も、僕にとっては大勢の内の一人でしかなかったのだ。


………


けれども、歩太が突然姿を眩ました時。
真剣に歩太を探し、しぶとく歩太の帰りを待っていたのは、あれだけいた女の子の中でも、尚子だけだったような気がする。

尚子はしつこいくらいにアパートに通い、歩太の部屋で深夜まで手がかりを探し、歩太のよく通った居酒屋やバーを虱潰しに当たっていた。