「えっ……ナナミちゃん、どうしちゃったの?
歩夢、何かしたの?」


尚子が足音も立てずに僕の側へ寄ると、不安げな表情で瞳を潤わせた。


「ねえ、歩夢。
ナナミちゃん、なんか変だよ?」


尚子が、僕のセーターの袖を甘えた仕草で引っ張る。


………


それから暫くの間、僕達の間には時間だけが流れた。

野中七海は椅子の上でほとんど踞る様にしながら、肩を震わせてじっとしている。

視線はテーブルの上のどこか一点を見詰めたまま、動かない。

……涙を流す訳でもない。
感情のない視線を、彼女はただ集中させている。


コトコトコト……


野中七海の震えが小さくなったので、鍋の沸騰する音が響く。
僕は野中七海の視界になるべく入らない様に、静かにガスコンロの火を止めた。