「……どうした?」


弱々しい僕の問い掛けに、野中七海は何も答えない。
僕を捉えていた彼女の強い視線は、フワリと動いて宙を漂っている。


彼女はいったい……何を見ているのだ?


咄嗟に、僕の頭をかすめる強烈な不安。

これは……
もしかしたら彼女は今、『まとも』じゃないかもしれない。


そんな直感が、僕の酔った頭を急激に覚ましていった。


動き始めた虚ろな彼女の視線は、何もない所に何かを捉えているようにも見える。


「やっぱり、そうなのね」


野中七海が視線を漂わせたまま、何かに、誰かにそう問い掛ける。
ただ……空虚にだけ向かって。


………


気が付けば僕は、まるで呼吸の仕方を忘れてしまった様に、暫くの間息を殺していた。

ス……ハア……と、気持ちを落ち着かせる様に忘れていた呼吸を整える。