それからまだ少し時間は早いけれど、僕と野中七海は買い置きしておいたビールで、妊娠中の尚子はオレンジジュースで乾杯をした。

用意してあった具材を野中七海が手際よく鍋に入れ、お喋りをしている間に温かそうな湯気が上がる。

グツグツと煮える鍋の中には、意外に器用な尚子が作ったいわしのツミレや、白菜や葱などの沢山の野菜達が、野中七海が味付けした汁の中で美味しそうに踊っていた。

下らない冗談を飛ばしながら、僕達の箸はよく進む。


………


3人の真ん中で、暖かい湯気を上げる鍋。
いつものお喋り、笑い声。


近頃の僕達はどこか、あべこべな家族の様でもある。


……心地よい居場所。

僕達はそれを求め合いながら、各々に各々の要求を意識するでもなく向かい合っている。

現実とは、多分そういった類いのごくありふれた事象の積み重ねだ。


その確かな繋がりが時間をかけて、僕と彼女のいるかけがえのない現実となって確立していく。

それは、未来へと向かう時間を伴って揺るがない。


それに比べたら歩太の存在など……
いつか、幻となって消えるはずなのだ。

きっと。