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「あー、おかえり歩夢」
「あ、お帰りなさい、アユニ」
雪がちらつきそうな、12月に入ったばかりのある日。
大学から帰った僕を、いつもの様に野中七海と尚子の二人が迎えてくれた。
「ただいまーー……」
かじかみそうな手をコートのポケットに突っ込んだまま、僕は暖かいキッチンの空気に大きな息を吐いた。
そんな僕の様子を見て、野中七海がにっこりと微笑む。
「今日はね、寒いから、お鍋をしようと思うの。
さくらも休みだし。
土鍋をね、ほら、尚子さんが持って来てくれたのよ?」
そう言って彼女が指す先には、桜の花びらの模様のついた大きな土鍋。
きちんとガスコンロまで用意してある。
「鍋かあ、いいね」
鍋なんてどのくらいぶりだろう?
東京で鍋にありつける機会は、そうない。
「へへーー、ウチはさ、彼氏が鍋モノ、好きなんだよね。
でも、たまには3人でやろうと思ってさ。ウチから持ってきちゃった」
そう言って、尚子が嬉しそうに笑う。
「今日は寒いから、ぴったりよね」
と、野中七海もまた嬉しそうだ。