『じゃあアユニ、お詫びにシュークリームを買ってきてくれる? ママの好きないつものシュークリーム。必ずね』


彼女は益々声を弾ませながら、僕にそんな約束を取り付けようとする。
彼女の意識はもう、僕の事なんかより、お土産のシュークリームの方へと向いているのかもしれない。


『お詫び』

そうは言っても、彼女の声から僕の失態を責める様子は、やはり微塵も感じられないのだ。


「うん。わかったよ」


僕は彼女にそう約束をすると、

『絶対にね!』

そう言って彼女は念を押してきた。


「うん」

と僕はもう一度約束をし、

「じゃあ、後で」

と電話を切る。


……


……なんだ。

彼女は、いつもと何も変わらないじゃないか。
まるで何もなかったかのようだ。


僕は安心した反面、どこか腑に落ちない気持ちでもあった。


………


僕は閉じた携帯を見つめながら、煙草を一本取り出して火をつけた。


『もっとさっきの事を責めてくれたらいいのに』

そんな気持ちが……沸き上がらないでもない。


『何でさっきあんな事を言ったの』

そう責めてもらえたら、僕はどんなに楽だっただろうか。