「いや、たまたま……」
僕はそう慌てて言い訳をしようとする。
『二人だけでアユとの思い出の場所へ行くなんて、ズルい!』
………
『アユ』
野中七海はそう、サラリと言ってのける。
それは当面の禁句だと思い込んでいた僕は面食らってしまう。
……それにしたって、彼女の声はいつもと変わらない。
寝起きの悪い僕をたしなめる時の、いつもの彼女の様子とまるで変わらないではないか。
彼女はもう、あの一件の事をきれいさっぱり水に流してくれたのだろうか。
それとももう、忘れてしまっているとか?
彼女の表情はいつも僕の目の前でくるくると変わる。
僕だけがいつも取り残される。
確かにいつだって彼女は、そんな調子なのだけれど。