『アユニ、いったい今、どこにいるの?』


そう僕に問う彼女の声はやけに軽快で、悪戯を企んでいる子供の様に、妙に弾んでいる。


なんだろう。
むしろ機嫌がいいようにも思える。


『関係のない事だわ』

そう強く吐き捨てた彼女の声を、僕はつい数時間前に聞いたはずなのに。

今、僕の耳に届いてくる声は、それをすっかり忘れさせてくれるような、そんな声だ。


『アユニ、ズルい! わたし、小百合さんからちゃんと聞いてるのよ?
工藤さんと食事をしているんでしょう?』


野中七海のテンポのいい張りのある声が、冗談混じりに受話器ごしから響いてくる。

今、まさに僕の目の前には、大きく頬を膨らませた彼女のわざとらしい膨れっ面が見えるようだ。