「……知っていると言えば、知っている。
だけどさっきも言っただろう?
歩太はそうするしかなかった。それだけだ。はっきりした理由があるわけじゃない。それほどまでに何かに追い込まれた。
だからって、俺が何かしてやれる訳じゃない。何もしてやれない事もわかっていた」
工藤さんのワイングラスは、いつの間にかまた空になっていた。
通りかかった店員がそれに気付き、
「おかわりはいかがですか?」
と、わざとらしい笑顔を貼り付けた。
工藤さんは僕に視線を止めたまま、黙って店員にグラスを差し出す。
………
「ナナミちゃんに何か大きな原因があるのは、間違いないよ。
……それから、仙台」
「……仙台?」
僕は思わず、その工藤さんの言葉を繰り返してみる。
「そうだ、仙台。杜の都、仙台だよ。
そこに、恐らく何かがある。
知らないか? 歩太は一時期、仙台に住んでいた事があるんだよ。
……まあ、それについてアイツは、あんまり話したがらなかったけどな」