『押し付けるな』
『肯定してやれ』


そう言った工藤さんの言葉は、いやに僕の耳に響いた。


………


『歩太はもう戻って来ない』


けれども、彼女にそう言い放ってしまった自分の声を思い出して、僕は密かに悔やむ。


……もう、遅いかもしれない。

嫌われてしまったかもしれない。

確かに。
僕は肯定してやるべきだった。

自分の存在がいかに、不本意な扱いを受けていたとしても。

彼女のためには。


………


「はあ……」


僕は思わず、露骨な溜め息をついてしまった。
それに気が付いた工藤さんは、さも楽しそうに笑う。


「俺は、歩太にもそんな話ばかりしてきたよ。アイツ、モテるくせに変な女ばかり相手にしてたからな。よく叱ってやった。
だけど、ナナミちゃんに会ってよくわかったよ。
歩太はああするしかなかったんだ。それだけだ。
出て行ったのもそう。そうするしかなかったんだろう。
ナナミちゃんと歩太がどんな関係だったのかは知らないがな、その隙間に入るには、よっぽど根気がいるぞ」