けれども今日に限っては何かが違う。
何が、とははっきりと言えない何か。
それが、恐らくは僕の胸中だけで、静かに渦巻いている。
………
テーブルの上、そこに投げ出された彼女の細い腕、その傍らには、あのブルーのノートとペンが置いてある。
僕がそこに視線を止めたまま黙ってコーヒーを啜っていると、野中七海はそれに気が付いた様子で、そのブルーのノートを手に取って笑った。
「うふふ。……尚子さんや工藤さんに聞いた、色んなアユの事をね、沢山、記したのよ。……うれしいな」
そう言う彼女の頬は、ピンク色に上気している。
歩太の事を話す時、彼女はいつもこんな表情をする。
それが……やけに色っぽい。